カイガラムシの駆除と伴われる様々な危険・・・カンキツ類を例に

イセリアカイガラムシが,8月中旬に柑橘類の不知火(シラヌイ)にびっしりとついていました。

そのカイガラムシが分泌する甘露をねらってアリの大群もやってきます。

大繁殖して木を枯らしてしまうなどカイガラムシのなかでも最もやっかいな種類です。

今回,このイセリアカイガラムシの特徴や被害状況,防除方法などについて解説します。

 

イセリヤカイガラムシとアリ
イセリアカイガラムシとその甘露をねらって集まったクロクサアリ

 

 

 

 

イセリアカイガラムシとは

 

イセリアカイガラムシは,別名でワタフキカイガラムシといいますが,

別名で呼称しているのもよく見かけます。

学名は,Icerya purchasi,英語ではcottony cushion scale といいます。

カメムシやセミの仲間(半翅目)の昆虫で,樹液を好みます。

樹液ばかりを吸っているので,糖分の摂りすぎを解消するため甘露を分泌します。

アブラムシも柑橘類の若い葉を好んでびっしりと付きますが,これも近縁の仲間です。

 

イセリアカイガラムシは,オーストラリアから柑橘類の苗木に付着して世界中に広がった外来種で,

1878年,ニュージーランドで最初に記載されました。

柑橘類のほかに様々な木につきますが,見るかぎり柑橘樹をとくに好むようですが,

たまに庭のナンテンの木についていることがあります。

 

イセリアカイガラムシは,コナカイガラムシ類やオオワラジカイガラムシと同様に歩くことができ,

大繁殖すると枝や果実が真っ黒になってしまい,木が枯れるなど大きな損害をもたらします。

では,どうやって大繁殖するのでしょうか。

 

 

イセリアカイガラムシを覆う白いロウ物質の中を調べる

 

イセリアカイガラムシのメスは,

成熟すると腹部の背面に卵嚢を生じ,それらを保護するように,

生クリームを絞ったような縦に筋の入った白いロウ物質で覆われます。

 

イセリアカイガラムシの卵嚢
イセリアイガラムシの成熟して産卵したメス

 

木に口吻を刺し込んでしがみつき,病害をもたらすのは,すべてこの白いメスです。

オスはどこにいるのかというと,

分布しない北海道を除く日本本土では受精をしないで増える無性生殖が一般的で,

オスの姿はほとんど見られることはなく,

沖縄周辺ではオスが蝿のような姿で飛び回り,有性生殖をしているようです。

 

その卵とはいっても,通常見ることはほぼないと思います。

では,ロウ物質の中はどうなっているでしょうか。

卵を分離して実体顕微鏡で観察してみました。

 

今回,大量の卵を1個体の卵嚢から分離することができました。

卵は,半透明でいかにも単為生殖で増えたような耐久性のなさそうな卵です。

卵の大きさは,測ってみると長さ 0.75-0.8 ㎜ でした。

分離した中には,すでに孵化した幼虫も混じっていました。

 

イセリアカイガラムシ
イセリアカイガラムシの卵と幼虫

 

 

この写真は,サンプルのほんの一部(59個の卵と7個体の幼虫)をとって,

スライドグラスに載せたものですので,1個体すべて数えるとこの5倍以上はあると思われます。

いるのは1個体だけではないので,これが全て孵化して成虫になると,大変なことになります。

 

 

イセリアカイガラムシ幼虫
孵化したばかりの幼虫

 

イセリアカイガラムシの幼虫
触角,目,口および6本の足のみられる幼虫

 

 

この幼虫が大きくなると,下の写真ですが,

ロウ物質や卵嚢を自ら完全に取り去っている2個体です。

 

清見オレンジの葉にとまる2個体のイセリアカイガラムシ

 

 

この写真は,柑橘の木に大量発生し,薬剤を散布して数日後に撮ったもので,

薬は浸透移行性のある農薬を使ったので,

葉や枝にも薬剤が浸透していると考えられ,虫体はかなり弱っている状態と思います。

 

 

 

 

歩行可能なカイガラムシ

 

カメノコロウカイガラムシやヤノネカイガラムシなどの固着するタイプのカイガラムシは,

脚(あし)が消失し,削ぎ落とすことで駆除できますが,

脚のあるタイプは,昆虫らしく3対あって歩くことができます。

ですので,農薬を使わずに駆除する場合は,

削ぎ落としたあと,ロウ質の分泌物に守られて卵や幼虫が生きている可能性があります。

 

 

 

ワタフキカイガラムシ
綿のようなロウ物質に隠れるイセリアカイガラムシの足

イセリアカイガラムシ
ロウ物質を取り払った6本の足をもつイセリアカイガラムシの成虫の裏側

 

 

イセリアカイガラムシによる樹木の病気

 

このカイガラムシが増えすぎると,カビの1種による「すす病」にかかったりします。

すす病は,Capnodiumという菌の蔓延が原因で生じます。

Capnodium菌は,カイガラムシの甘露を栄養分にして蔓延することで,

枝や葉の光合成を不能にし,木の枝葉が枯死する原因になると考えられます。

もちろん,カイガラムシそのものによる影響もあると思います。

 

 

Icerya purchasiとCapnodium sp.
不知火の枝に付いたイセリアカイガラムシとCapnodium菌

 

すす病による枯れ枝
イセリアカイガラムシやすす病菌に侵されて枯れた柑橘類の不知火の枝

 

 

まとめとして,動画をつくってみましたが,

カイガラムシの駆除についても下に書いているので,

見られない方は動画は飛ばしてください。

 

 

 

 

イセリアカイガラムシの農薬による防除

 

イセリアカイガラムシは,上の写真で紹介したような幼虫の段階では

マシン油乳剤の散布により窒息効果で駆除可能と思われます。

木への薬害や虫の活動時期などを考慮して,新芽が出る前(3~4月)に水で50倍に希釈して散布します。

 

マシン油乳剤の使い方の詳細と注意点については ⇒ こちらのページ

 

 

マシン油
マシン油乳剤(キング95マシン)

 

マシン油を散布したとしても,完全には防除できるわけではありません。

春に少数発生した場合は,できるだけ手で捕まえて処理するのが良いです。

とくに花の時期は,吸蜜し花粉を媒介する昆虫が薬害を受けていなくなってしまうなどの

二次被害が出てしまいます。

とくに,昆虫に対する毒性の強いネオニコチノイド系農薬の薬害が問題になっていて,

欧州EU圏内では,ネオニコチノイド系農薬の使用が禁止されているほどの状況です。

国内においても,SNSにおいてネオニコチノイドの禁止の声をあげる方が目立ってきているようです。

国内外の様々な情報や意見を知りたい方は,SNSのキーワード検索窓などに「ネオニコチノイド」などと

色々なキーワード(複数並記可)を入力して情報収集をされてみてください。

やむをえず散布が必要な場合は,散布時期に花を咲かせる植物は付近に植えないようにするといった努力が

必要になってくるでしょう。

薬害を被るのは吸蜜昆虫のみでなく,他の虫や下草の種などをついばんでくれる小鳥や,セミやバッタなどの

罪のない生き物にまで及んでいることを忘れてはいけません。

これからは大峠の時代ですので,自然や生き物を大切にし共存することが必要であることに,

ご存知でない方も近いうちに気が付く時がくるでしょう。

 

カイガラムシが大量発生した場合は,ネオニコチノイド系のモスピランSL液剤(アセタミプリド)や,

モスピラン顆粒水溶剤が,カイガラムシ全般に対して適用があります。

この他にもネオニコチノイド系には,モスピランSL液剤(アセタミプリド)のほか,

アクタラ顆粒水溶剤(チアメトキサム),ベニカ水溶剤・ダントツ水溶剤(クロチアニジン),

スタークル顆粒水溶剤・アルバリン顆粒水溶剤(ジノテフラン)など多数ありますが,

カイガラムシ類全般には適用がありません

 

モスピランSL液剤は,ホームセンターで市販されているモスピラン液剤よりもアセタミプリドの濃度が

18%と濃く,医薬用外劇物に指定され個人では通販で入手できません。

アセタミプリドは,ミツバチなどへの影響が少ないとされますが,その安全性を疑問視する声もあります。

用法,容量,回数,収穫前日数などをきちんと守って使用すれば全く問題ないと思われがちですが,

自家用にみかんを栽培されている場合は,一定期間に食べる量がどうしても平均よりも増えてしまいますので,

自己の安全管理も必要になってきます。

 

ネオニコチノイド系以外にも環境ホルモン農薬のピリフルキナゾン(コルト顆粒水和剤)がありますが,

ホルモンという言葉の示すとおり,赤ちゃんの先天性生殖器異常が報告されていますので使用しないことです。

報告を見れば,食べ過ぎもダメということですね。

 

農薬の希釈率などは,勘違いして濃度が濃いめになってしまうということも起こり得ますので,

くれぐれも間違いのないように調製する必要があります。

また,調製や散布の際に,吸入したり,目に入ったり,皮膚に付着したりしないように注意が必要です。

 

忘れがちなことですが,

違う名前の農薬でも,同じ成分を含む農薬のこともありますので,

1つの農薬で3回までと記載されているために,

別の名前で市販されている同じ成分の農薬を3回ずつ使用してしまうという危険なケースも起こり得ます。

 

果樹の場合,1本の木に対して,基本的に1年に3回を超える回数の化学農薬散布はしないほうが良いです。

ただし,使用回数制限のないマシン油乳剤や石灰硫黄合剤などは含まれません。

石灰硫黄合剤は,カイガラムシ類において落葉果樹への高濃度散布(7~10倍希釈)の適用はありますが,

石灰硫黄合剤は強アルカリ性の農薬ですので,

常緑果樹のミカンなどにおいてカイガラムシ類に対する高濃度散布は適していないようです。

高濃度の石灰硫黄合剤は危険で酸性土壌を好む果樹には不向きですので,

ネオニコチノイド系農薬を使いたくない方は,

石灰硫黄合剤をカイガラムシのついている箇所のみ部分散布してみるというのも良いと思いますが,

因果応報といいますか,たとえ邪魔な虫だとしても邪険に扱ってはいけません。

 

 

【在庫の農薬を使用するときに注意すべきこと】

2014年から,農薬の安全性を評価する短期暴露評価というのが実施されていて,

農薬の適用作物が削除されたり,使用方法が変更されている場合があります。

その場合,農薬のラベルなどに記してある通りに使用した場合でも,

作物の販売をする場合は,法令違反(事故品)になってしまうほど責任重大なことですので,

自家用に栽培されている方は,その都度,農薬メーカーのホームページなどで確認して使用すべきです。

削除例として,柑橘類は,ジメトエート乳剤オルトラン水和剤などが適用作物から削除されています。

 

最後に気を付けるべき点は,

お隣さんの家が近くにある場合は,生死に関わることでもありますので,

大きな樹木などに噴霧器を使った大がかりな農薬散布を行う場合は,

農薬散布前に事前予告などの安全管理をしておくのが適切でしょう。

 

ほかのあまり害のない虫たちは,ミツバチだけではありません,

他の多くの種類の蜂のほか,チョウやアブといった多種類の花粉を媒介してくれる虫など生態系への影響を

考えると,できるかぎり農薬は使用しないよう心掛けたいものですね。

防虫ネットの使用は,ミカンバエ,カミキリムシ,カラスなどに対しても大きな利点があります。

ホタテの貝殻には消臭や防虫効果があるようで,カイガラムシにも有効との情報もあります。

貝殻を砕いて網袋に入れて枝に吊るしておくのも良いでしょう。

2017/08/15

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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