梨の苗木の植付けー梨の産地の地質を考慮した土づくり計画
どのような果樹を植えるにしても,地質やそれと大きく関わる土壌酸度,そして土質が重要ですが,
梨(ナシ)を植える予定の山は,花崗岩を起源とする真砂土で,苦土やアルカリの枯渇した酸性土壌です。
今回は,花崗岩の真砂土でもナシの栽培は可能なのか,どのような土壌改良をすればよいのか,
地質や土質などの観点から,土づくり計画ををしてみました。

梨の苗を植え付ける土壌の改善余地はあるのか
掘り上げた新鮮な土を,デジタルの土壌酸度計で測ってみると,pH5.0でした。
花崗岩を起源とする土壌は,一般的に水はけが良いと一括りにいえません。
尾根や斜面では,確かに真砂土でサラサラな表土で水はけが良いですが,
地形的に谷だった土地は,細粒分が水の作用で濃集したためなのか,
褐色粘土質(赤土)で硬く,5~10㎝の礫をまばらに含み,極めて透水性の悪いところがあります。
ナシの適正土壌pHは,一般的に,酸性でも中性(pH7)寄りのpH5.5~6.5とされています。
アルカリなどのミネラル分の少ない花崗岩の真砂土や赤土だけで,果たして良いナシが育つのか。

そういう疑問をもちながら,ナシの苗を植える計画を立てました。
まず,土壌改良をすれば良いのではないかと考えました。
それなら,どのような土壌なら栽培に適しているのか。
検討してみました。
梨の産地の地質事情
関東地方
梨の産地といえば,梨の妖精“ふなっしー”(船橋市非公認ゆるきゃら)の存在で良く知られる
千葉県がありますが,梨の生産量が全国1位です。
幸水や最近人気が高まっているという豊水など,赤梨系品種が多いですね。
千葉県でも,東京に近い市川市,船橋市などに産地が多く,
梨の生産量全国3位までは,関東地方の茨木県,栃木県が占めています。
その理由はなぜなのか。
大消費地の首都圏に近いことも挙げられますが,梨の産地の地質にも大きく関係していると考えられます。
関東地方には,関東ローム層が広く分布していますが,
この層は,中期更新世末(およそ15万年前)以降に噴出した火山灰などを起源とするシルト,
粘土,砂が混ざった褐色粘性土で,赤土と呼ばれているそうです。
火山灰といっても火山噴火により直接飛んできて降り積もったものは層準が限られていて,
大部分が火山灰が風により巻き上げられて堆積したもので,
長い年月により火山ガラスなどが粘土化した透水性の悪いものです。
その火山灰は,一体どこからきたのか。
玄武岩質から流紋岩質のものまで色々あるはずなので気になりますね。
それは,主に神奈川/静岡県境付近にある箱根火山と愛鷹山(あしたかやま)などの
噴火を皮切りに関東平野に火山灰の供給がはじまり,北へ古期富士(先小御岳~古富士火山),
群馬県の榛名山(はるなさん),赤城火山,栃木県の男体山など,
関東平野を取り囲む多くの火山から供給されたもので,玄武岩,安山岩,デイサイト質の火山物質が起源だ
ということがわかっています。
鳥取県
地域がかわりますが,
二十世紀梨をはじめとするナシの一大産地の鳥取県は,
梨園の分布と地質を重ね合わせてみると後期新生代の安山岩質の火山岩類のほか,
一部,結晶片岩の分布する土地に立地していて,土壌に元々,ミネラルやアルカリ分が
花崗岩よりも比較的多い土地に梨の産地が立地しているようです。
火成岩の化学特性
安山岩は,花崗岩に比べると灰~黒っぽい色をしていることは想像がつくと思います。
この原因はというと,
黒いほど,鉄やマグネシウムなどの苦鉄質の鉱物,たとえば黒色の角閃石や輝石などが
多く含まれていることにあります。
また,花崗岩は酸性岩,安山岩は中性岩,玄武岩は塩基性岩と呼ばれているように,
それらの岩石の風化物を起源とする土壌のpHは,酸性岩から塩基性岩の順に高くなる性質があります。
ですので,安山岩は,苦鉄質鉱物を構成するマグネシウム(Mg)や
鉄(Fe),アルミニウム(Al)のほか,白色の斜長石を構成するカルシウム(Ca)
といった元素が比較的多く含まれています。
ということは,安山岩起源の土壌は,ミネラル分が豊富で,
pHも真砂土よりも比較的安定した状態で梨を育成できることを強みとしている
と考えて良いと思います。
土壌の保肥力
土壌の保肥力は,土壌中の粘土鉱物や腐植の量と比例していて,
pHを合わせるときにも,これらの物質の量を考慮して石灰資材の量を計算する必要があります。
pHを適正状態にするために石灰資材をあまり投入せずに済むということは,
その分の土壌の保肥力をほかの肥料成分にまわすことができるのは非常に効率が良いことです。
つまり,pHを合わせるために石灰分を与えすぎると,
梨の養分となる他の微量要素を保持するための土壌の吸着能がなくなってしまい,
雨が降るとすぐに溶出,流亡してしまい兼ねません。
白くまっさらに近く肥料成分に枯渇した花崗岩起源の土壌が,
安山岩や玄武岩起源の比較的肥沃な土壌に対抗できるはずがないので,
比較的簡単に手に入る安山岩質の資材はないかと考えました。
赤玉土,鹿沼土,ボラ土のどれが近い?
ホームセンターで販売されていて,比較的手に入りやすい火山物質起源の資材に
赤玉土,鹿沼土,ボラ土があります。
● 鹿沼土は,栃木県産で,白っぽく,組成的に酸性の強いデイサイト質の軽石で,
少し風化して柔らかくなっています。
● ボラ土は,宮崎県産で,硬質で,鹿沼土よりもやや黒っぽい軽石。
おそらく酸性の弱いデイサイト質の軽石。
鉢植えの土に混ぜて排水性を良くしたり,粗粒のものは鉢底石として使ったりしています。
● 赤玉土は,赤土が固まったもので,pHが6~6.5で,梨の適正pHの高い領域と一致しています。
通気性や排水性,保水性が良いといわれるので,
鉢植えなどにする際に庭の土に混ぜ込んで使うことがよくあります。
この赤玉土が,面白いことに梨の一大産地の集中する関東地方の関東ローム層の土を
ふるいにかけて販売しているものだということに気が付きました。
小粒,中粒,大粒と3種類の粒径の赤玉土があります。


赤玉土は,地元では栃木県産のものが販売されています。
土壌酸度計で測ってみると,3年以上,屋外で雨ざらしの状態で放置した赤玉土でも,pH 6.0でした。
栃木県産は,火山灰も榛名山や赤城山,男体山起源のものが多いと考えられますが,
地層のどの層準を掘ってふるいにかけているかで組成も若干変わってくるかもしれません。
pHとミネラル分は問題ないと思います。
でも,排水性という面ではボラ土に劣ります。
赤玉土は,もともと排水性の悪い性質の土で,粒状だからこそ排水性が良いのですが,
吸水すると柔らかくなってもろくなります。
施肥の際に混ぜたりしていると,次第に粒の形がくずれて良さが半減してしまうので,
少しボラ土なども混ぜると良いのかもしれません。
今回は,植穴を掘り上げた真砂土や赤土に,赤玉土のみを混ぜ込んで使うことにしました。
2018/02/04
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