畑のキャベツにつく,夜行性のヨトウガと昼行性のモンシロチョウの幼虫
山の畑で秋から夏にかけてキャベツをつくっているのですが,
春になるとどうしても,ヨトウガやモンシロチョウの幼虫などに葉を食害されてしまいます。
結球していないうちに芯を食べられるとキャベツが育たなくなります。
今回は,農業害虫であるヨトウガの特徴と,きれいなキャベツを収穫するにはどうしたらよいのか,
無農薬有機栽培および化学農薬について紹介します。

ヨトウガ(夜盗蛾)とは
ヨトウガは,チョウ目ヤガ科ヨトウガ亜科に属するいわゆる蛾の1種。
ヨトウムシの代表格です。
ヨトウムシは,俗語で,ヨトウガのみを指す場合や,ヤガ科に属する蛾を指す場合があります。
農薬の適用害虫欄によくヨトウムシという語を見かけます。
どうしてこのような俗称が使われているのでしょうか。
俗称が使われる理由について考えてみました ⇒ こちらのページ
ヨトウガの学名は,Mamestra brassicae(マミィストラ・ブラッシキィ)。
英名で,Cabbage Moth(直訳:キャベツガ)。
ヨトウガの生態
英名から想像できますが,キャベツを植えると,たいていの場合,
この蛾の幼虫に気がつかないうちに食害されてしまいます。
その理由はのちほど。
上の写真(Fig. 1)のように,作物の葉に産卵をして,幼虫が結球葉菜に穴を開けたり,
葉をぼろぼろに食い荒らします。

科のオーダーで,夜蛾(ヤガ)といわれるように,
ヨトウガは,夜の間に活動する夜行性の蛾です。
成虫は,春(4月)にサナギから羽化して成虫になり,夜間に交尾,産卵をしますが,
幼虫も,夜や,曇った暗い日に活動していますので,葉に食害痕があっても,
明るい昼間は,暗い場所に隠れていますので,葉を1枚1枚さぐってみないと中々見つかりません。
つまり,夜間の気がつかないうちに葉を暴食されていて,唖然とするパターンです。
下の写真(Fig. 3)が,5月末に結球したキャベツの最も外側の葉をめくったときに現れた幼虫です。
幼虫は,昼間には株の地際付近の土の中に潜んでいるといわれます。
陰になる場所が被害株やその周りに何もない場合(中齢以降)や,蛹になる準備をする時(老齢)を除き,
土に潜っているところを見たことはないです。
若齢幼虫のときは,力が弱く土に潜れないのか,仕方なく茎や葉にしがみついているようです。

ヨトウガの幼虫の特徴
幼虫は,若齢のものでは緑色をしていて,ほかのハスモンヨトウなどのアオムシと区別しにくいですが,
体の表面に小さな黒い点々がたくさんみられるのが特徴です。
植物の色素の影響と思いますが,どういうわけか野菜によって体色が薄くなったり濃くなったりしています。
老齢のものでは,頭部が褐色,そのほかの部分が褐色を帯びた灰色~灰黒色,暗緑色をしていて,
側面にクリーム色の側線が走っていて,これを境に背面のほうの体色が濃いです。
手で触っていると体色が変わります。
下の写真(Fig. 4)のように脚のついた側は,緑がかってきます。
上の写真(Fig. 2)をみると,胸部(3対の足がついている部分)から腹部にかけての各環節の背面に,
ひと際目立つ黒線が3対ほどあるのに気が付くと思います。
さらに,幼虫の尾脚のほうをみてみると,そのあたりの背面にも,黒く太めのハの字形の模様があります。
そのほかは,ぼやけてはっきりしません。
幼虫には,胸部の3対の脚のほかに,腹脚と呼ばれる足があって,
ヨトウガの腹脚は,ほかのヨトウムシと同じで腹部の第3節~6節の各環節に計4対あります。

ヨトウガは冷涼な気候に適応している
ヨトウガ幼虫は,夏真っ盛りになって暑くなると,株の根元あたりの土にもぐってサナギになります。
ヨトウガは,熱帯性のハスモンヨトウとは違って,暑さが苦手ですので,
夏の間に見られないのはそのためです。
下の写真は8月上旬に畑を耕したときに出てきたものです。

ヨトウガは,秋も暮れて,かなり寒くなってもキャベツに幼虫がついているのを見ます。
というのも,
夏の間に土の中にいたサナギが羽化して,秋に再び成虫が活動をはじめ繁殖するためです。
中間地では,冬に蛹化せずに幼虫のまま越冬しているのを見たことがあります。
ただし,これらの事情は,寒冷地,中間地,暖地で異なることがあるようです。
冬から翌年に蛹化したヨトウガは,春になると羽化して活動をはじめます。
枝豆やニンジンなどにつくハスモンヨトウ幼虫については ⇒ こちらのページ
モンシロチョウ(紋白蝶)の幼虫によるキャベツの被害
モンシロチョウもキャベツを食害することは,よく知られているところです。
同じイモムシでも,モンシロチョウの幼虫の食害痕(Fig. 6)はかわいいものです。

農業における大害虫として嫌われている夜蛾(ヤガ)と違って,
ほとんどのチョウは,昼行性で昼間の明るい時間に活動します。
チョウがあまり嫌われないのは,ただ綺麗でかわいいという理由だけでなく,
そういった事情もあるのかもしれません。
しかし,キャベツを畑から隔離して種から大事に育てても,その苗に卵(Fig. 7)を産みつけるために
わざわざ飛んできますので,その半月後くらいには苗が無残な姿(Fig. 8)になることもあります。


ヨトウガの幼虫を防除する対策はあるのか
完全無農薬栽培の場合の防除対策
山の畑では,宅地周辺と違って虫がかなり多いですので,
まず,無農薬栽培では,防虫ネットで作物を保護することが重要になってきます。
そこで経験したのが,キャベツの畝に防虫ネットを,トンネル状に被覆して育てていても,
作物が大きくなりすぎて,ネットを押し上げたり,押し広げたりすると,
防虫ネットの上からヨトウガやモンシロチョウが産卵できますので,良い効果が得られません。
多少は被害を軽減できますが,幼虫が老齢になるとそれも無意味になってしまいます。
ですので,防虫ネットは幅の広いもの(例えば幅1.8m)をホッチキスなどでつなぎ合わせるなどして,
かなりの余裕をもって被覆することが重要です。
防虫ネットはホッチキスで仮止めをした後,釣り糸などで縫い合わせておくと良いです。
しかし,こうしていても畝のまわりに雑草が生えてきて,産卵されて小さい幼虫が中に侵入してしまうこと
がありますので,長期栽培の作物の場合,こまめな除草作業が欠かせません。
ただし,これでも足りない場合があります。
同じ畑で前作において,防虫ネットなしで他の野菜を栽培していた場合,
意外にも,コガネムシ類の幼虫が,土の中にたくさん残っていることがあります。
これが夏に羽化して出てきてしまうと,コガネムシにキャベツがボロボロに食害されてしまいます。
これは想定外のことでした。
コガネムシ幼虫の防除にフォース粒剤という植付け前に,全面土壌混和を施す農薬がありますが,
キャベツやハクサイにはコガネムシ幼虫に対して使えません。
というのも,コガネムシ幼虫は,樹木版のネキリムシなのですが,
農薬の適用害虫欄では,ヤガ科のネキリムシとは区別してあります。
ですので,畑を耕す際に,幼虫はすべて取り除くことが必須になります。
ただし、幼虫はつぶさずに他の場所で同じくらいの深さに埋め戻してあげて下さい。
農薬による対策
有機栽培
有機栽培に使用できる農薬としては,野菜類に対して広く適用のあるBT剤という生物農薬があります。
BT剤は,ヨトウムシ,アオムシ,ハスモンヨトウ,シロイチモジヨトウなどに使用できます。
BT剤の種類,使用できる作物および適用害虫に関する詳細 ⇒ こちらのページ
化学合成農薬
農家さんが栽培するきれいな野菜は,たいてい農薬が合法的に適度に使ってあるといって良いと思います。
しかし,有機リン系やネオニコチノイド系などの農薬は,基準を満たしていても健康上の安全性が
疑問視されているものもあります。
その上,危険性が指摘されている除草剤(グリホサートが主成分)を畑の畝間に散布したり,
ひどい場合は,豆類などの作物で収穫時期をそろえるために収穫前(プレハーベスト)に直接散布したり,
種を播く前に畝(うね)に散布するという信じ難い方法が国内にもあるようです。
ご存知でない方は,SNSのほか,YouTube動画などの検索窓に,
上に挙げた単語など色々とキーワードを入力(複数並記も可)して情報収集されてみて下さい。
SNS(エスエヌエス)もYouTube(ユーチューブ)もアカウント登録不要(広告が掲載されるため無料)で
誰でも見ることができます。
ですので,自家用に栽培していない野菜は,農薬づけのものを買って食べることになります。
SNSやユーチューブを見てすでに気づいている方も多いと思いますが,
これからは,一切の自然破壊と化学物質の使用を止め,動物たちと共生することが推奨される時代です。
自家菜園で野菜を栽培する時くらいは,農薬や除草剤を使用せずに育てたいものですね。
ホームセンターなどでよく見かけるヨトウムシに使用できる農薬としては,
オルトラン水和剤やマラソン乳剤がありますが,上記のような理由でお勧めできません。
化学合成農薬をどうしても使用しなければならない時は,使用に際して注意すべき点が色々とありますので,
以下のページで解説しています。
キャベツや白菜に使用できる化学農薬は ⇒ こちらのページ
2018/10/07
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