温州ミカンのカミキリムシ被害とその対策
6月に入り,果樹にとって生死を左右される大害虫のカミキリムシが樹幹の中から出てくる季節です。
柑橘類の中でもとくに温州ミカンの木がカミキリムシの被害に遭います。
これまで,樹齢40~50年を超える古いみかんの木の根元に大きな穴を開けられ,
木が枯れてしまうのに悩まされてきました。
大切な木に大きな穴を開けられると,それが何十年ものの大事な木であれば,
そのショックは計り知れないものです。
そのようなことが度重なれば木が枯れてしまうという事態が起こってしまいます。
今回,カミキリムシ対策について,色々と綴ってみたいと思います。

温州ミカンの木の根元の樹皮に出現する大きな穴は何なのか
ミカンの木の根元に6月になると円形の大きな穴が開いているのをよく見かけていました。

穴の大きさは,径1㎝くらいで,奥行はかなり深く10㎝以上はあるでしょうか。
一番上の写真がそうですが,出てきたゴマダラカミキリを穴にはめ込んでみると,
すっぽりとはまる大きさですので,ゴマダラカミキリの脱出孔であることは間違いないです。
ですので,
この脱出孔の中に薬剤を噴射してもあまり意味がないと考えられます。
また,テッポウムシ(洞虫ともいいます)の駆除に “テッポウダン” という薬剤ペレットを穴の中に入れて,
粘着剤のようなもので穴をふさぐといった商品もあり,一度試しましたが,
これを知らずに,ゴマダラカミキリの脱出孔に施しても,穴が大きいため量的に足りず,
穴の中にたれていくのみで,これといって意義を感じません。
カミキリムシ被害を軽減するにはどうすれば良いか
カミキリムシの卵が孵化して,樹皮に穿孔すると,穴からオガクズ状の糞を外に排出しますが
地面に落ちるため見た目では気が付かないことが多いですが,降雨のあった時など湿っていると,
穴からオガクズ状の連なった糞塊が押し出されているのに気が付くことがあります。
株元の場合はカラタチの根の溝の部分に産卵したりするとわかりにくく,ほぼ気が付きませんが,
枝に産卵している場合は樹皮にカミキリムシ成虫の噛み傷(裂け目)が見つかったり,オガクズ状の糞が
出ていたり,卵が孵化して幼虫が樹皮下を食害し,流線形~不定形の形状に樹皮を浮き上がらせているのが
見られます。
糞が排出されている穴を見つけた場合,細めの針金を差し込んで360度空間の広がりを確認し
樹皮を剥いでみるとテッポウムシが出てきます。
樹皮が乾燥してすでに浮いている場合は,剥いでみると小さいテッポウムシがまだいることがあります。
そこに幼虫がいない場合は,鳥に捕食されたか,材組織を穿孔して深くにいるか,株元に下って食入した
などの理由が考えられると思います。
樹皮を剥いだ後は,カルスメイトなどの保護剤を塗っておきます。
カナブンなどの甲虫が樹液を目当てに訪れる場合は,乾燥しないうちに保護剤を食べてしまいますので,
接木テープなどを巻いておくと良いです。
いくぶん大きくなったテッポウムシの掘った穴(径5㎜くらい)に対して,
テッポウダンを施すのは良いと思いますが,
穴を見つけるには,樹皮を剥ぎ取り,材を砕いて穴を探す必要があります。
カミキリムシ成虫の株元への産卵を防除するために,
防虫ネットを設置してからのこと,6月中旬にゴマダラカミキリが,
網の内側に大きな穴を開けて出てきて,網にトラップされていたことがありました。


カミキリムシは,7~10月が産卵期で,産卵から1年あるいは,遅生まれの場合は
2年で羽化して成虫になるとされています。
ゴマダラカミキリに効く農薬はない?
生物農薬
大規模なみかん栽培をされている場合は,
バイオリサという,カミキリムシを駆除する生物農薬があります。
何年も使用を続けることにより効果が出てきて,被害がなくなるそうです。
バイオリサに関する詳細は ⇒ こちらのページ
化学合成農薬
カンキツ類において,ゴマダラカミキリに適用のある化学合成農薬もあります。
しかし,化学物質に頼らず,初夏以降発生した個体はできるだけ手でつかまえるのが好ましいです。
つかまえたカミキリムシは,人里離れた遠方の山の雑木林に放してあげると良いこともあるでしょう。
その場合,一時的な飼育が必要になりますが,湿らせた土にできるだけ新鮮なカンキツの葉枝を挿して
容器に入れておくと良いです。
多少抵抗があるかと思いますが,これからの大峠を生き抜くための備えという意味もあります。
敵ながら,1度飼ってみると愛着がわいてきてとても・・・。
近年,昆虫に対する毒性の強いネオニコチノイド系農薬の薬害が問題になっていて,
ハチなどの吸蜜し花粉を媒介する昆虫が薬害を受けていなくなるなどの二次被害が出ています。
欧州EU圏内などにおいてはネオニコチノイド系農薬の使用が禁止されているほどの状況です。
国内においても,SNSにおいてネオニコチノイドの禁止の声をあげる方が続々と増えてきています。
SNSのキーワード検索窓に「ネオニコチノイド」などと入力して情報収集をされることをお勧めします。
ご存知でない方は驚嘆されると思います。
どうしても散布が必要な場合は,昆虫を寄せ付けないために散布時期に花を咲かせる植物は付近に植えない
ようにする努力が必要です。
ただし,薬害を被るのは吸蜜昆虫のみでなく,木についている虫や下草の種子などを採餌してくれる小鳥や
樹液を吸うセミなど関係のない生物にまで及んでいることを忘れないでください。
農薬は,カミキリムシの産卵期に主に樹皮をかじったり食べたりする成虫を対象として散布します。
例えば,浸透移行性のあるネオニコチノイド系ですが,
アクタラ顆粒水溶剤(希釈倍数:×4000~2000):通販可
このほか劇物扱いのモスピランSL液剤もありますが,劇物に指定されているというだけあって,
ネオニコチノイド系の中でも経口毒性が高く危険なため非推奨です。
浸透移行性がありますが,奥深くの木部に入り込んだ幼虫に対しては,あまり効果がないように感じます。
ベニカ水溶剤やアルバリン顆粒水溶剤の場合,1日程度は効果を発揮しますが,
効果の持続性を感じられないので,どちらにしても木の見回りが不可欠になります。
ですので,農薬をどうしても使用しなくてはならない場合,アクタラ顆粒水溶剤くらいしかありませんが,
これもネオニコチノイド系の中でも経皮毒性が突出していますので,
農薬を調製する際や散布中・後に,絶対に肌や目,他の生物などに付着しないようにして下さい。
なお,自家用のみに栽培されている方は,どうしても一定期間に食べる量が平均よりも増えてしまいますので,
その点に関する自己の安全管理も必須です。
【 農薬を使用する場合の注意 】
上に記述している農薬やその濃度は現時点でのものです。
対象となる作物や適用害虫は,今後変更または削除されたり,農薬が使用禁止になる場合があります。
使用前に必ずメーカーなどのホームページなどで確認が必要です。
害虫防除のために,1本の果樹に同じ系統の農薬を年に3回を越えて散布するとやりすぎになりますし,
収穫期の遅い品種のみの場合は良いですが,収穫前や9月下旬以降の収穫時期に散布することもできません。
対象木の収穫が終わっていたとしても,目に見えないミストとして未収穫エリアに風により飛散する危険が
あります。
このほか,有機リン系のスプラサイド乳剤がありますが,使用しないことです。
とくに,妊娠中の方や小さいお子さんのいらっしゃる場合などは特段の注意が必要になります。
カミキリムシの幼虫(テッポウムシ)の穴に農薬
ゴマダラカミキリの場合は,ある程度,幼虫が縦横無尽に根元付近を食害してから,
加害部分が枯死し腐朽が進まない限り,穴を見つけることが困難で,気が付かないことがほとんどです。
明らかに枯死しているようでしたら,ハンマーで根元部分を打診してみるのも良いかもしれません。
音で空洞が確認されたら,インパクトドライバなどに木工用ドリルを装着して穴を開け,
殺虫剤を噴射し,粘土などで穴にフタをしておくのも良いです。
エアゾール式殺虫剤が発売されていますので,もしテッポウムシの穴を見つけた場合は,
スプレー式の殺虫剤が2種類あります ⇒ こちらのページ
以上のように,人体や地球環境に負荷を与える薬害問題のほかカミキリムシ防除は色々と大変な面があるため,
自家用に柑橘類を小規模栽培される場合には,
部分的に防虫ネットを設置した上で,6月に入ったら足繁く木を見て回って,
成虫がいないか,テッポウムシの食害痕がないかを確認し適切な対処をするか,あるいは,
一番良いのは,木全体を防虫ネットで覆ってしまうことです。
木全体を覆えば,近年多発しているカラスによる果実の集中攻撃や,ミカンバエ幼虫(ウジ)入りの果実
などへの心配もなくなります。
ビニルハウスのパイプ枠を利用(例えば,こちら)したり,10m×1.8mの防虫ネットを釣り糸などで
縫い合わせ,木にべた掛けするというのも良いでしょう。
是非,色々とよく考えて,やりやすい方法を検討されてみて下さい。
株元に部分的に防虫ネットを設置した場合,孵化した幼虫がすき間や網の目を通り抜けるということも
否定できないため,できるだけすき間をなくし,網の目は細かいものが良いです。
防虫ネットを設置していても,網を枝にひもでしばり付けた箇所よりも上のあたりに,
樹皮が剥がれた痕が見つかり,内側にテッポウムシがいることがよくありますので注意が必要です。
虫も頭が良く,網を食いちぎって網の上から樹皮に産卵したり,ひもでしばった箇所ぎりぎりに産卵し,
そこよりも下に食い込んでいることもあります。
ですので,色々と工夫して改善していくことが急務になります。
カミキリムシが原因で枝が枯れた場合の対処
もし,主幹から分岐した枝が枯れてしまった場合は,
放置せずに早めに切ってしまったほうが良いです。

上の写真ですが,
木の根元の枯れた部分を削って見てみると,穴がたくさん開いていて,
小さい種類のカミキリムシの成虫や幼虫が点々と見つかります。
生きている木にはつかないカミキリムシの種類もいて,
ゴマダラカミキリなどが原因で枯れた根元の部分に卵を産み付け,穿孔して内部に入り込むようです。


枯れた枝を切って取り除いたとしても,またそこから枯れ込んでいくことが多く,
カミキリムシがそこに卵を産み付けます。
生きた組織が見えるくらいに切ったあと,カルスメイトという保護剤を塗っておくと枯れ込みを防げます。
カルスメイトに関する詳細は ⇒ こちらのページ
カミキリムシが原因で柑橘類の木の根元の大部分が失われた場合の対処
この場合は,ほとんどのカンキツ類の台木として使われているカラタチを用いて,
「根接ぎ」をすることも可能で,樹勢が弱くなったときに行われます。
カラタチを地面に植えつけて,温州ミカンなどの形成層にノミなどを用いて切れ込みを入れて接ぐ方法です。
市販のカンキツ苗には,必ずといって良いほどカラタチ(長さ10cm程度)が使われているので,
同じ品種の苗を購入して,これを根接ぎに使うこともできます。
ここでもカルスメイトが役に立ちます。
かなりの経験が必要ですが,枯れて失ってしまうよりは,試してみる価値はあるかもしれません。
2018/06/16
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