ハスモンヨトウ(夜蛾)・・・ヨトウムシと呼ばれる農業害虫
9月中旬,山の畑で年末年始用に育てていた“アズキ(小豆)”の葉や茎に,
ヨトウムシと呼ばれる蛾の1種,ハスモンヨトウの幼虫がたくさんみつかりました。
無農薬で育てようと,防虫ネットで畑の畝を覆っていたのですが,
その中がいつの間にか, “虫かご” 状態になっていました。
今回,ハスモンヨトウの幼虫のほか,サナギ,成虫までもがトラップされて1度にみつかりました。
そのような想定外の事態になったのはなぜなのか,ハスモンヨトウとは何者なのか,
調査・検討を行うとともに,防除策をまとめてみました。

ハスモンヨトウは,ヨトウ虫?
ハスモンヨトウは,チョウ目ヤガ科ヨトウガ亜科に属し,
学名は,Spodoptera litura
漢字で書くと,斜紋夜盗で,いわゆるヨトウムシ(夜盗虫)の1つに数えられる大害虫です。
“ヨトウ” とも略してよくいわれますが,略形を使うことのほうが多いように感じます。

英名が Oriental leafworm mothで,トウヨウアオムシガと訳されるように,
東アジアでも,とくに熱帯地方を中心に分布し,インド,南半球のオーストラリアの方にまで及んでいます。
タバコや綿花などの作物を食害する農業害虫として世界的に知られています。
このように,暑い気候を好む蛾ですので,
関東地方以西の地域に被害が多く,夏になると成虫が羽化し,幼虫による作物の被害が発生します。

上の写真をみてわかるように,
ハスモンヨトウの幼虫は,頭部に近い方(腹部の環節のうち第1節の背面)に,
ひと際目立つ左右1対の黒い斑紋があるのが特徴ですが,目立たない個体も中にはいます。

ハスモンヨトウの成虫は,名前にあるように,前翅の前縁から後縁にかけて,
白い線(斜紋:ハスモン)が斜めに入っているので,識別しやすいです。
観察していると,ヨトウガの幼虫と違って土の中には潜らないようにみえます。
ハスモンヨトウは,老齢幼虫になると作物の株下の土の浅いところに潜りこみサナギになります。
そのため,畑を耕したり,草取りをしたりすると,
下の写真のような黒っぽく赤紫色を帯びたサナギがよく出てきます。

ヨトウムシは,夜盗(やとう)を犯す
ヨトウムシは,農業の立場からいうと,夜の間に畑の作物を食い荒らす蛾の幼虫をさし,
夜の盗賊ともいうべき存在です。
ヤガ科のヤガ(夜蛾)は,その字のとおり夜行性の蛾です。
ヨトウムシというと,作物の大害虫であるヨトウガ,ハスモンヨトウ,シロイチモジヨトウが代表的ですが,
ヨトウガのみを指す場合もありますし,ヤガ科に属する蛾に対してヨトウムシと呼ぶこともあります。
つまり,ヨトウムシは,学術的な分類用語ではなく,俗語です。
広義において,夜盗虫=夜蛾 になります。
農薬の適用害虫の名前に俗称が使用される理由について ⇒ こちらのページ
ハスモンヨトウと同じヨトウガ亜科のシロシタヨトウやアワヨトウも作物の害虫として認識されています。
ヨトウムシは,昼間にじっと見つからないように作物の葉陰や茎につかまったり,
株元の地際に潜んでいることが多く,根切り虫(ネキリムシ)と呼ばれることもあります。
コガネムシ(甲虫類)の幼虫も根切り虫と呼ばれますが,被害を受けるのは樹木の根の場合が多いです。
ネキリムシは,野菜の出たばかりの芽や,植え付けたばかりの苗を食べ尽くしたり,切り倒したりして,
それまでの苦労が水の泡となることも,たびたびありました。
農家の人が,蛾を嫌う理由には,そういったこともあります。
ハスモンヨトウは,夜の間に産卵する
ハスモンヨトウの幼虫は,これまで,野菜ではニンジン,豆類ではアズキや大豆といった作物
についたことがあります。
とくに,アズキは,ゾウムシの幼虫がいつの間にか豆に入り込み,
調理する際にたくさん幼虫が浮いてきたりして大変なことになりますので,
豆の乾燥に至るまで防虫ネットの使用が不可欠になります。
今回,アズキ畑の畝に防虫ネットを設置して,正月用に完全な無農薬で育てていたのですが,
いつの間にか,アズキの葉や枝,豆の入っている莢(さや)が,ハスモンヨトウのエサとなり,
1~3㎝の大きさの幼虫が,葉や茎などにたくさんつかまって無残に虫食まれていました。
それだけ大きくなるのが早いということです。
防虫ネットで覆っているということで,安心して見逃していました。
では,どうやって中に入ったのでしょうか。
恐らく,アズキの丈が大きくなって,葉や茎が生い茂り,
防虫ネットを押し上げてしまうほどに成長していたため,成虫が網越しに産卵したのでしょう。
経験されている方もいらっしゃると思いますが,
キャベツを栽培していても,葉が想像以上に大きく広がりますので,アズキなどと同じことが起こります。
ヨトウガ幼虫によるキャベツの食害については ⇒ こちらのページ
そうなると,防虫ネットの幅が,1.35mや1.8mでは足りない場合があり,
ほとんど防虫ネットを設置する意味がなくなってしまいます。
ですので,1.35m,1.8mの幅のものを1.5㎝くらい2重に折りこんでホッチキスで仮止めした後,
釣り糸と太い縫い針を使ってつなぎ合わせるといったことなどが必要になります。
外国製の幅3mの防虫ネットもないことはないのですが,耐久性が悪いというレビューがありました。
しかし,できるだけ国産を買ってあげたいですね。
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防虫ネットをつなぎ合わせる釣り糸は,直径0.4㎜で標準直線強力11kgくらいの太めのもの(例えば→こちら)が
切れずに縫合しやすいです。
縫い針は,太く針穴の大きいもの(例えば→こちら)を使っています。
糸の玉止めは,しっかり5回以上結ばないと網目をすり抜けてしまいますのでご注意下さい。
防虫ネットには,キラキラ光る銀線が編み込まれているものもありますが,
モンシロチョウなど昼間に活動するチョウに対しては多少,忌避効果があるかもしれませんが,
それでも,モンシロチョウは,網の上からキャベツの葉に産卵し,
いつの間にか成虫が防虫ネットの中で飛び回っているといったありさまです。
ヨトウムシ類は,夜の間に産卵するため,
防虫ネットの銀線は,ヨトウムシ類の成虫に対して全くといってよいほど役に立たないと思います。
防虫ネットを虫よけとして十分な効果を持たせるには,
幅や高さに余裕をもって防虫ネットを設置するほかにありません。
ハスモンヨトウは,作物の葉に1箇所に密集するように卵を産み付けます。
1つの卵塊は,3㎜~8㎜程度の広がりをもっています。

1つの卵は,直径が0.5㎜くらいです。
成虫が卵を産み付けにくいように,網の目の細かいタイプ(0.75㎜メッシュ)の防虫ネットが市販されています
ので,そちらを使うとより良いです。
蛾の幼虫を完全にカットするには白い不織布が良いですが,高価な割に,穴が開きやすいなど
耐久性があまり良くなく,使いようによっては採算性の問題も出てきますね。
また,風通しが悪く,キャベツのように夏の暑さと蒸れに弱い作物もありますので,
作物によっては,秋から春にかけて使用するといった注意が必要です。
このように,完全無農薬の野菜を求めて自家栽培される方で,虫食いを防ぎたい場合は
防虫ネットや不織布を使用するといった方法が良いかもしれません。
しかし,大きな圃場では,手間がかかり中々難しいですので,他の方法を以下に挙げてみたいと思います。
ハスモンヨトウの防除と駆除
ハスモンヨトウの成虫の防除
ヨトウムシ類が夜に活動するということ,
つまり,光に集まる習性と,ヤガの複眼が光に反応して昼間と勘違いする性質を利用して,
野菜などに産卵を阻止するという方法があります。
設備費が大きいですので,野菜や果樹を大規模栽培,あるいはハウス栽培する場合に有効な方法です。
様々な色の電灯を利用した蛾の防除について詳しくは ⇒ こちらのページ
ハスモンヨトウの幼虫の駆除
今の時代は,すでに世論が害虫の駆除よりも共生といったことが要求される空気に傾いてきています。
日常的に視聴するメディアがテレビ中心の方は,なかなか気がつかないでしょう。
できれば,SNSのキーワード検索で例えば「ネオニコ 危険」などと入力して情報収集をされてみてください。
上に挙げた単語など色々とキーワードを入力(複数並記も可)して情報収集されてみて下さい。
SNS(エスエヌエス)もYouTube(ユーチューブ)もアカウント登録不要(広告が掲載されるため無料)で
見ることができます。
これからは農薬や除草剤の使用は,極力控え少しずつ生活スタイルを改めていくといった工夫が
否応なく必要になってくるでしょう。
生物農薬
ハスモンヨトウの幼虫の駆除に使用する農薬として,
有機農作物栽培に使用できるBT剤と呼ばれる微生物農薬があります。
このBT剤も,老齢幼虫の駆除は難しいようですので,幼虫の早期発見につとめ農薬の早めの散布が必要です。
様々な種類があって,いろいろな使いみちがありますので,
以下のリンクのページにまとめてみましたので,参考にされてください。
化学農薬
ハスモンヨトウに適用のある化学農薬はたくさんありますが,
以下のリンクのページで,安全性を考慮していくつか紹介していますので,ご参照ください。
・ キャベツや白菜などのアブラナ科野菜に対して使用できる農薬
2016/09/18
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