防蛾灯(ぼうがとう)など虫よけに使われる明かりの原理について考える

虫よけに使用される明かりは,色々なものがあります。

ハスモンヨトウ(斜紋夜盗)やヨトウガ(夜盗蛾)などの野菜にダメージを与える蛾だけでなく,

エグリバなどのミカンやナシ,リンゴなどの果実の果汁を吸汁する吸蛾類(きゅうがるい)もいます。

これらの蛾は,ヤガといわれるもので,それぞれの作物の生理に合った色の光を利用して,

食害や蛾の繁殖行動といった活動を抑制することができます。

今回は,農業害虫となる蛾を防除する光のからくりについて考えてみます。

 

 

 

黄色の光に蛾の防除効果があるのはどうしてなのか

 

対象となるのは,蛾の中でも暗くなると活発に動き出すヤガ(夜蛾)と呼ばれるものです。

ヤガ科の成虫や幼虫は,日中に暗いところでじっとしていて,摂食や繁殖行動もしません。

防蛾灯は,日暮れから明け方までに使用されるもので,

このことからも,ヤガは明るさを嫌うということが想像できます。

 

ですので,黄色の光というのは,太陽の光の色と考えて良いと思います。

というのも,天に輝く恒星の色は,その表面温度によって決まっていて,

温度が低いほうから高いほうへ,赤色→ダイダイ色→黄色→白色→青色と変化します。

太陽の表面温度は華氏5800度とされていて,そのスペクトル型がG2,つまり黄色になります。

スペクトルのイメージとしては,

ベテルギウスは,表面温度が低く,赤色巨星と呼ばれるように赤色,

シリウスBは,表面温度が高く,白色矮星(わいせい)と呼ばれるように白色という感じでしょうか。

もし,太陽がベテルギウスだったとすれば,ヤガも赤色の光を避ける習性をもっていたかもしれません。

 

ガスコンロやローソクなどの温度の違いによる炎の色も同じ理屈?と思われがちですが,

これらは炎色反応によって表れる色で,温度領域も低めです。

 

これで,防蛾灯の光が黄色いという理由がわかりましたので,

これから具体的に製品を紹介しながら,光の仕組みについて解き明かしていきたいと思います。

 

 

 

 

モスバリア

 

モスバリアは,名前のとおり,主に蛾(moth: モス)を防除するためのLEDを使用した防蛾灯で,

栽培する作物や虫によって光の色が異なりますので,それぞれに適合したものを選んだほうが,

より良い効果が得られると思います。

光の色には,①黄色・緑色のミックス,②緑色,③褐色などがあります。

 

モスバリア ミックス

モスバリア ミックスは,黄色と緑色の光源が混ざっていて,果樹や野菜の栽培に適しているようです。

ナシなど収穫前果実の被害には,黄色の光の防蛾灯が従来から使用されていますが,

この製品では,どうして黄色と緑色の光がミックスされているのか考えてみました。

 

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その理由は,植物には光周性というのがあり,光に当たる時間が長くなり,暗い時間が短くなると,

花芽分化しなくなり,作物が収穫できなくなる場合があるからでしょう。

逆に,暗い時間が短くなると花芽形成がはじまるキャベツやホウレンソウ,

そのほかのアブラナ科の葉物野菜で秋蒔きができる作物では,塔立ちを促進してしまいます。

 

つまり,緑色の光を足すことで明るさを保ったまま,黄色の光の成分を少なくすることによって,

影響を無視できるレベルにしてしまおうということでしょう。

 

防蛾灯に緑色の光源が使われる理由

ではどうして,緑色の光なら良いのでしょうか。

これには,昆虫と植物,それぞれの事情があります。

ヤガの眼は,複眼からなり分光感度が低いため,ヒトのように約60色もの色を区別できません。

ミツバチの例では,複眼の色受容細胞の種類が少なく,紫外線,青,青緑,黄しか認識できていません。

ミツバチが見える黄色に関しては,ヒトの場合,この黄色をさらに緑,黄,橙色として分解して認識できます。

ですので,ヤガの場合も緑色の光も黄色として認識しているということでしょう。

ヤガは緑色の光も苦手だということですね。

 

植物に関しては,葉が緑色をしているということで,

植物は,緑色の光を反射していて利用しないので影響が出ないのではないか??

と思われる方もいらっしゃると思います。

実は,そうではありません。

 

葉が緑色をしている理由は,栄養をつくり出すために光合成を行っている葉緑体があるからで,

その葉緑体は,葉の細胞の中に小さい粒々の形で入っていて,

緑色として認識できるくらい多く含まれています。

どうして葉緑体は緑色をしているのか!?

 

葉緑体に光が当たると緑色の光成分だけが選択的に反射され,葉全体がヒトの目に緑色として認識される,

ということでしょう。

しかし,緑色の光は,反射や透過によって,なかなか葉緑体に吸収されないという性質をもつだけで,

光合成に利用されていないわけではないということです。

それならどうして緑色の光を選択的に反射する必要があるのでしょう。

 

赤や青系統の光は葉に吸収されて見ることができませんが,緑色の光は葉を透過しても緑色に見えます。

陽射しに面した葉の表側に分布する葉緑体が,光の成分をすべて吸収してしまったのでは,

葉の奥まで十分に光が行きわたらないという,何とも効率の悪いことになってしまいます。

葉緑体は,葉の組織の中に3次元的に無数に散らばって分布しているものなので,

葉の内部で緑色の光が葉緑体に当たって乱反射することで,これらに満遍なく光が当たり,

葉全体で効率よく光合成を行えるようにしているというわけです。

この光成分の選択性は,葉の内部組織の温度上昇をやわらげるという効果もあるようです。

 

では,花芽の分化には,どのような色の光が関わっているでしょうか。

 

花芽形成に関わる光の色

花芽の形成や光発芽などに関わる色素タンパク質にフィトクロムというのがありますが,

このタンパク質は,赤色の光を受容して刺激を受けると活性化し,

花芽形成物質(フロリゲン)が,葉の師部で合成されます。

その“フロリゲン”が,茎頂(枝先で芽をつくり出す部分)で合成されるタンパク質と結びついて,

細胞増殖に関わる遺伝子が発現することで花芽の分化がはじまります。

 

このように赤色ではなく,実際に黄色の光で花芽分化に影響が出てしまうという,

その問題点について考えてみようと思います。

 

 

 

モスバリア グリーン

モスバリア グリーンは,グリーンのLED光源のみを使用していて,

微妙な開花時期の調整が必要になってくる花卉類(かき)の栽培に適しているようです。

ですので,黄色の光を含むモスバリア ミックスのほうは,多少の生理的影響があるのかもしれません。

というのも,黄色というのは,より波長の長い赤色のスペクトルと漸移的で,

技術的にどうしても赤色の成分が混ざってしまうといったこともあるでしょう。

また,ヤガにとっては波長の短い緑色よりも,波長の長い黄色の光のほうが忌避効果が高いということで,

緑色の光源の利用は,代替手段といったところでしょう。

 

緑色(グリーン)の光は,前の項で説明したように花芽分化に影響を与えないと考えられるので,

短日植物長日植物のどちらの花栽培にも適しているといわれています。

説明書にただそう書かれていても,短日植物,長日植物って何?

と思われる方もいらっしゃると思います。

 

簡単に説明すると,

長日植物: 1日のうち日没から日の出までの連続した暗い時間帯が,一定時間よりも短くならないと,

花芽分化が起こらない。

秋に播種して越冬でき,春に花を咲かせる耐寒植物に多く,

例えば,大根やキャベツなどのアブラナ科葉物野菜やホウレンソウ,小麦などがある。

短日植物: 1日のうち日没から日の出までの連続した暗い時間帯が,一定時間よりも長くならないと,

花芽分化が起こらない。

日照時間が日ごとに短くなっていく夏至から冬至にかけて花を咲かせる植物で,

例えば,アサガオ,大豆,サツマイモ,シソ,コスモス,秋ギクなどがある。

 

ということで,こうした日長効果は,光周性(こうしゅうせい)と呼ばれますが,

作物ごとに決まっている限界暗期をもっていて,それが花芽形成に関与する植物では,

1日の暗期の長さの経日変化の傾向の相違によって長日植物か短日植物かに概ね分けることができます。

 

このような生理現象は,日長の変化とともに,気温も同時に変化していますので,

作物を栽培していると,一見,気温と関係があるような錯覚に陥ってしまいますが,

実はそうではないようです。

 

このほかのモスバリアの取り付けなどに関する詳しいことは,メーカーのホームページをご参照ください。

以上,モスバリアについて解説してきましたが,

このほか,以下に挙げる類似商品もあります。

 

 

 

黄色の光源を利用する防虫製品

 

トマト,キュウリ,ナス,エンドウ豆,トウモロコシなどの野菜は,

花芽の形成が光に当たる時間と関係がなく,中性植物と呼ばれています。

ですので,中性植物は,黄色の光源のみの電灯を使用しても問題ないという事になります。

 

イエローバリアー

既存の白色蛍光灯を有効活用して,光源を黄色にしてしまうという製品です。

白色蛍光灯に含まれる昆虫が好む領域の光をイエローバリアーでカットします。

 

長さ119 ㎝,幅20 ㎝ のポリエステルフィルムで,40Wの蛍光灯に巻くタイプになります。

形状記憶加工がしてあるので,取り付けやすく,

火元がなければ燃えにくい素材で,発火点が500℃と木材よりも高いです。

詳しくは,楽天市場のホームページをご参照ください。

 

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イエローバリアー・・既存の蛍光灯に巻くタイプ
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カラード蛍光灯

白色蛍光灯にフィルムを巻くタイプではなく,もともと黄色い色の着いた蛍光灯が市販されていて,

防虫と表示されているものもあります。

しかし,色の薄いものに関しては防虫効果が弱く家庭用になりますので,気をつける必要があります。

 

蛍光灯の長さは,20W形で58㎝,40W形で120㎝になります。

グロー球が必要なスタータ形と,グロー球が不必要なラピッドスタート形の2種類ありますので,

間違えないよう気をつける必要があります。

果樹栽培への用途が記載されている製品もありますが,

イエローバリアーと同じ効果が期待できるかどうかは,不明です。

 

<注意>

Amazonでは,10~15W形のLED蛍光灯の取り扱いもあり,従来のグロー式でも使用可能なタイプもあります。

しかし,このLED蛍光灯は,濃い黄色ですがサイズが短く,家庭用ということでしょう。

LED蛍光灯は,高価格で発熱も大きいようですが,電力消費量は,普通の蛍光灯の半分程度になります。

LED蛍光灯の20W形以上のものは色が薄く,防虫効果の弱い家庭用で,

従来の白色蛍光灯にはない明かりの柔らかさ(電球色)を求めて購入される方が多いようです。

 

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