ミカンバエの防除と警告・・・温州ミカンの実に棲みつくウジ虫とその成虫
庭などにみかんの木が植えてあるというお家では,
温州ミカンの実をむいて割ったときに,ごくたまにウジ虫が入っていた,
知らずに口に入れてしまったという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。
ミカンバエは,現在は,九州,四国のほか,本州では山口県あたりまで分布が記録されています。
今回は,このミカンバエがどのような昆虫なのか,その防除について,
さらに,幼虫が入っているミカンの実の見分け方などについてつづってみたいと思います。

ミカンバエとはどのような虫なのか
ミカンバエは,一見すると蜂のように見えますが,
ハエ目ミバエ科に属するハエの1種です。
ミカンの実の中で孵化するハエの幼虫ですので,いわゆる“ウジ”(蛆)といえます。
学名は,Bactrocera tsuneonis(バクトロセラ・チュニオニス)
英名は,Japanese orange fly
ミバエは漢字で“実蝿”と書きますが,見てのとおり作物の実の中に入るウジとして,
世界的に果樹や野菜の生産者にとっては,大害虫として認識されています。
その中で,ミカンバエは,およそ北緯35°以南の中国,台湾,ベトナム,日本など,
東アジアの暖かい地域に広く分布し,
カンキツ・キンカン類の実を食害する農業害虫として知られています。
ミカンバエは,温州ミカンなど果皮が薄く比較的柔らかい果実への産卵が多く,
果皮の厚いカンキツ類には,産卵しないといわれますが,
厚く堅い果皮のカンキツ類でも幼虫を確認したことがあります。
例えば,スイートスプリング(かなり堅い果皮です),清見(キヨミ)など。
ミカンバエは,7~8月にかけてカンキツ類の果実に卵を産み付けます。
農薬を使用して防除対策のなされていないカンキツ類の木があると繁殖します。
繁殖するのは,暖地に区分されている暖かい地域が多いようで,
最近は,防除が的確に施され,見られなくなったといわれる地域もあります。
近年では,暖地と冷涼地の中間地でも被害が増えてきているようです。
温州ミカンの生産地域も,今や福島県,一部ですが佐渡島まで北上し,
温暖化の影響でほかの夏虫と同じように,今後,東へ北へと分布が拡大していくことでしょう。
ミカンバエの交尾・産卵は,暖かい地域では7月下旬には始まるようで,
8月上旬くらいがピークかもしれません。
何年も前のことになりますが,
下の動画はミカンバエの交尾の様子です(8/5撮影)。

捕獲しなければと気が焦り,上の産卵シーンの写真がぼやけてしまいましたが,
この時に捕獲したメスの個体が下の写真です。
軍手をして蚊を叩くように,上下から挟みうちにして簡単に捕まえることができました。

下の写真は,産卵管を実体顕微鏡で撮影したものです。
ハチの毒針のように見えますが,この針のような産卵管を果実に突き刺して卵を産み付けています。
通常,産卵管は中に収められていますが,かなり長く伸びます。

ミカンバエがミカンの実に産卵して,しばらく日にちが経つと,
ポツっと黄色く熟れたように着色した部分が現れます。


これが果実の異常着色と呼ばれるものです。
この時期には幼虫がすでに果皮に穴を開けている実を見かけます。
呼吸のための穴も兼ねていると思いますが,外に脱出する準備をしているところでしょう。
下の写真ですが,
ちょうど穴のところで実を真っ二つに割ってみると,食害された跡が現れ,
ミカンバエ幼虫も驚いて出てきます。

このミカンは極早生温州(ごくわせうんしゅう)で,下の写真を撮影した10月5日は収穫期のものです。
被害を受けていない果実は,まだほとんど着色していない状態ですが,
幼虫が入っている果実は,際立って黄色に熟れた状態になります。


ミカンバエの幼虫の入っていない果実は,黄色く熟れても落果することはありませんが,
ミカンバエ幼虫が入っていると,ヘタと果実の結合が弱くなり,
引き捥ぐとヘタから簡単に分離しますし,
雨風に当たると,放っておいても多くの実が落果を引き起こします。
ただし,幼虫の入った果実のすべてが落果するわけではありませんから,
収穫した果実を虫ばみ続けるものもいます。
このような果実は,果皮を指で押すと陥没する感覚があり,
圧をかけると空気が出てきたりするので,区別できます。
ミカンバエの発生の防除対策
落果したミカンの実ですが,割って見ると,まだ中から幼虫が出てきますので,
このあと,脱出して土の中にもぐりこんで,蛹となり越冬します。
ですので,落果した果実は放っておくと大変なことになります。
果実を踏みつぶしたとしても,ミカンバエ幼虫はとくに丈夫な皮膚をもっていますので潰れずにいます。
ミカンバエの成虫は,7月頃になるとサナギから羽化し,
日中は,暗く涼しい林内に潜み,涼しい時間帯に飛び回るようです。
実際,ミカンバエの交尾・産卵は,夕方5時過ぎ(西日本なのでまだ明るいです)に目撃しました。
ミカンバエ成虫を寄せ付けないために,ミカン畑の周りの雑木林を伐採して明るくするといっても,
他の方の所有する土地だと手を出しにくい上に,剪定をするといっても大変な労力になります。
ミカンバエの餌は,アブラムシやカイガラムシが分泌する甘露ですので,
まず,これらの発生をコントロールする必要があります。
果樹の場合,通常,カイガラムシ類やアブラムシ類については,
3~4月にマシン油乳剤の散布で防除をします。
マシン油乳剤の使い方の詳細や注意点については ⇒ こちらのページ
ミカンバエの防除の意義,および駆除に用いる農薬
ミカンバエの防除に農薬を使わなければならないという決まりはなく,
ハウス栽培をするか,防虫ネットで木全体を覆うという方法をとれば,防除は可能です。
というのも昆虫に対する毒性の強いネオニコチノイド系農薬の薬害が問題になっていて,
花の時期は,吸蜜し花粉を媒介する昆虫が薬害を受けていなくなるなどの二次被害が出てしまいます。
欧州EU圏内においてはネオニコチノイド系農薬の使用が禁止されているほどの状況です。
国内においても,SNSで環境や人体への薬害があるといった情報によりネオニコチノイド禁止を訴える声が
続々とあがってきているようで,情報が拡散するのも時間の問題でしょう。
試しに,SNSのキーワード検索窓を開いて「ネオニコチノイド」と入力し,情報収集をされてみてください。
恐らくびっくりされると思います。
どうしても散布を避けられないような場合は,昆虫を寄せ付けないために,下草刈りを徹底し,
散布時期に花を咲かせる植物は付近に植えないようにするなどの努力が必要でしょう。
ただし,薬害を被るのはハチやアブのみでなく,木についている虫や下草の種子を食べてくれる鳥たちや
樹液を吸うセミなど多くの害のない生き物にまで及んでいることを忘れないでください。
自家用に栽培をされる方は,防虫ネットの使用が地球環境や健康上において推奨されますが,
どうしても農薬を散布しなければならない場合は,7月~9月上旬頃まで散布します。
薬剤抵抗性を防止し,十分な効果を得るには,2~3種類の農薬を散布します。
農薬は,果実に散布しますが,その際,ムラが生じないよう満遍なく十分な量を散布する必要があります。
極早生温州を植えている場合は,9月中旬以降の収穫時期に散布することはできません。
収穫が終わっていたとしても,普通温州など未収穫エリアに風によって,
ネオニコチノイド系農薬の場合,目に見えないミストが長距離飛散する危険性があります。
ネオニコチノイド系農薬には次のようなものがあります。
・アクタラ顆粒水溶剤
・アルバリン顆粒水溶剤またはスタークル顆粒水溶剤(この2つは成分が同じ)
・ベニカ水溶剤
モスピランSL液剤(劇物扱い)は,ネオニコチノイドの中でアセタミプリドが主成分で急性経口毒性が
最も強くお勧めできません。
どうしても農薬を使用しなければならない場合は,上記のネオニコチノイド系農薬を2000倍希釈で,
種類を変えて半月おきくらいに総計3回まで掛け漏れなく散布します(3回を超えての散布は不可)。
農薬を水で希釈した後の散布液は,果実の個数にもよりますが,
1本の木(幅 4×4, 高さ 3m)に,おおよそ3リットルくらいの量になります。
噴霧器は,2頭式のノズルが散布しやすいです。
しかし,散布をしたからといって完全には防除できない時もあります。
8月にカイガラムシやアブラムシなどが発生した場合,
これらの昆虫の駆除にもミカンバエと同じ農薬が使われますので,果実への散布と同時に,
樹幹,枝葉へも散布すると効率が良いです。
用法,容量,回数,収穫前日数などをきちんと守って使用すれば法的には問題はないと考えられますが,
使用方法を誤った作物は,事故品として販売禁止になるほどです。
自家用に栽培している場合,一定期間に食べる量がどうしても平均を上回ってしまいますので,
こうした場合,説明書に記載があった,教えてもらったなどといった受動的な対策は避けるべきで,
自身が納得のいく安全管理が必須です。
農薬の希釈率などは,勘違いして濃度が濃いめになってしまうということも。
くれぐれも間違いのないように作業する必要があります。
ネオニコチノイド系農薬は,アクタラ顆粒水溶剤のような経皮毒性がとくに高いものもありますので,
農薬の調製や散布の際に,絶対に吸入したり,目に入ったり,皮膚に付着しないようご注意下さい。
このようなことは必ずといってよいほど起こり得ますので,
農業用のマスク,ゴム手袋,メガネなどを着用し,十分な注意が必要です。
在庫の農薬を使用するときに注意すべきことは,
農薬に記載されている使用期限や保管場所などを遵守する必要があります。
長い年月による経年劣化だけでなく,とくに,光の当たる場所に保管していると性質が変わり,
より毒性の強い物質に劣化している場合があります。
また,
対象となる作物や適用害虫が,今後変更または削除されたり,農薬が使用禁止になっている場合があります。
その場合,農薬のラベルなどに記してある通りに使用した場合でも,
作物の販売をする場合は,法令違反(事故品)になってしまうほど責任重大なことですので,
農薬を使用する際は,必ずメーカーのホームページなどで確認して使用する必要があります。
スプラサイド乳剤も,成虫を対象とする散布例をみかけましたが,
このスプラサイド乳剤は,ヒトの脳神経にも影響のある有機リン系殺虫剤である上に,
急性経口毒性値(mg/kg)からみると100 mg/kg以下で,スミチオンよりもはるかに危険度の高い農薬です。
急性経口毒性値とは,単位をみてもわかるように,
ラットやマウスなど特定の試験動物の半数が口から薬剤を投与して死に至った,
単位体重あたりの薬剤の重さ(mg)を数値で表したものですので,値が小さいほど毒性が高くなります。
中毒症状など引き起こさないように農薬の取り扱いには,とくに注意する必要があり,
子どもへの散布飛沫の曝露は厳禁です。
自家用にカンキツ類を栽培されているご家庭では使用しないことです。
ネオニコチノイド系などの農薬を散布しなければ害虫を防除できないといった決まりはありません。
あったとすれば誰が決めたのか疑問をもったほうが良いでしょう。
自家用に柑橘類を小規模栽培される場合は,ミカンバエのほか,カミキリムシ,カイガラムシといった昆虫
を防除しなければ,大切な木の寿命を短くしてしまいますので色々と対応が不可欠になりますが,
木全体を防虫ネットで覆ってしまうなどすれば,害虫防除だけでなくカラスなどによる果実の食害,
鹿による葉の食害や枝の損傷といった,様々な問題を解消できるでしょう。
ミカンは受粉を必要としません。
ミカンの木は樹高3m強にもなり,覆うのも一苦労ですが,防虫ネットの縫合や取り付けるための枠の設置
など色々と工夫をして改善していくのも面白いでしょう。
ビニルハウスの骨組みを利用することもできますので,工夫によってはポンカンなど寒冷地では難しい品種
を育てることも可能になるでしょう。
ネオニコチノイド系が有機リン系よりも安全とはいえないと結論している論文もあります。
どうしても化学農薬を使用しなければならない場合,自己責任ではありますが,
脳や神経,生殖の障害,発達障害,認知症など一生に関わる事象に結び付く可能性もあります。
これからは大峠,取返しのつかないことにならないためにも,生命により安全かつ地球環境により良い方法
をとるよう心がけたいものです。
このほか,温州ミカンの被害があり,以下で解説しています。
2018/08/03
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